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InnoLaboNIIGATA MAGAZINE

地域パートナー企業紹介 #16 麒麟山酒造株式会社

地域パートナー企業紹介 #16 麒麟山酒造株式会社

地域パートナー企業紹介 #16 麒麟山酒造株式会社

【会社概要】
麒麟山酒造株式会社
設立:1843年
本社:〒959-4402新潟県東蒲原郡阿賀町津川46
従業員数:37名
HP:https://kirinzan.co.jp/

主な事業
・酒類製造販売
・原料米の栽培
・副産物を原料とした食品の製造販売

【今回インタビューに答えてくれたのは・・・】
漆原 典和さん
麒麟山酒造株式会社 常務取締役
常務取締役として、業務合理化や働き方改革といった社員が働きやすい環境づくりや社員研修を行うなど、組織全体の統括を行う。営業部の部長も兼務し、営業の指揮を執る。

(以下、インタビュー形式で掲載)


―御社の事業内容について教えてください。

麒麟山酒造は日本酒製造を主体として、原料米の生産、飲料水や酒粕の販売を行っています。

―直近で一番新しい事業や取り組みについて教えてください。

私たちが日本酒の原料を地元・阿賀町で作っていることを皆さんに知っていただくために、「麒麟山米づくり大学」を始めました。県内外の20〜30代の方を中心に一般公募して、1年間を通して麒麟山の米作りと酒造りを学んでいただくという取り組みで、今年度で3期目になります。

当社の原料米を作っていただいている農家さんは32団体あり、阿賀町全体で収穫できる米の20%が私たちの酒の原料になっています。以前は県外産の酒米を使っていましたが、「米どころ新潟で、地元の人たちに飲んでもらう酒を作っているのであれば、地元の原材料にこだわろう」と30年前から取り組み始めました。一方で、当時中心だった40代のメンバーが今は70代になり、後継者問題に直面しています。

―地域の主要産業である農業を支えながら、酒造りをされているということですね。

2011年には社内にアグリ事業部を設立して、自らも農業・米作りに参入し始めました。様々なところからお米を集めるより、同じ地域で作った米の方が平均値を取りやすく、安定したものが作りやすいというメリットもあります。また、30年前に設立した酒米勉強会では、高品質で安定した酒米を作るために、所有しているすべての田んぼの作業記録や品質管理を行っています。

―いままでスタートアップと連携したことはありますか?今回、InnoLaboNIIGATAへの参加を通して期待していることは何ですか?

佐渡市の株式会社ビアパイントと一緒に出荷管理システムを開発中です。今までは、電話で注文を聞いて紙に書いて、それをシステムに打ち込んでいました。現在開発しているのは、お客様がスマートフォンから商品の発注ができ、当社にデータとして反映されるというものです。これを第一段階として、過程をさらに簡素化していきたいと考えています。これによって、注文の聞き間違いを防いだり、お客様自身も発注履歴を確認できたりするので双方にとってメリットがあります。

―御社のように長い歴史のある日本酒業界は新しいものを取り入れることにハードルがあるのかなと感じますが、実際はどうですか?

確かに複雑すぎたり、属人化しているようなルールがあったりするので、それを会社全体でクリアにしていこうとしています。2年ほど前からこういった取り組みを始めたので、あと3年くらいで仕組みを整えていく予定です。今の時代の人たちがもっと仕事をやりやすくなることで、本来やるべき業務にもっと時間を割けるようになることを目指しています。

―今後、スタートアップと一緒に特に注力して取り組んでいきたいことは何ですか?

例えば、製品部で担当している瓶詰め作業でラベルの曲がりや容量を検知できるシステムを新しく開発中です。今まではメーカーが提案してくれたことをそのまま受け取っていましたが、最近は「もっとこう改善できるんじゃないか」ということも言うようにしています。

あとは、地元の米作り(農業)の担い手不足と高齢化が問題です。スマート農業なども活用しながら魅力を向上させて、外部からの就農を増やすというのが今一番の課題ですね。この地域は山の上にあり、田んぼが点在していたり、きれいに区画整理されていなかったりと大規模農業のやり方は適していません。それに加えて、場所によって草刈りのルールが異なっているなど、均一化した管理が難しいです。

―全国の中山間地域も同じような課題を抱えているのではないでしょうか。

多分、どの地域も同様だと思います。農家の方たちとも一緒になって、実際に現場を見ていただいたり、実証実験をしたりできたらいいと思います。地域がまとまって農業に取り組んでいかないと維持は難しくなっていくと感じています。あと5年、10年が勝負ですね。

―農業の魅力や付加価値を上げることにも取り組まれていますか?

米作りをやっていることは発信していますが、大変な部分ばかりでなく、もっと楽しさも伝えていかなければと思っています。当社のアグリ事業部にも言っていますが、例えば農作業時の服装にファッション性を取り入れたり、軽トラックをおしゃれに塗ってみたりと楽しさを見出せるように働きかけています。自分たちが楽しいと思わないことに対して、人は絶対楽しいと思わない。

あとは、働き方を改善していく必要があると思います。自分の趣味に使えるような時間を作ることや、今から退職後にやる楽しみを作っておく、何か新しいことにチャレンジすることを勧めています。今年は「スマイルウィーク」という全社員が必ず1週間の連休を取るという仕組みを導入します。

―スタートアップに提供できるアセットにはどんなものがありますか?

田んぼもそうですし、酒造りの機械も全国で同じようなものを使っているので、そのメンテナンスなどができたら全国に横展開できると思います。

あとは、酒粕を使って何かできたらいいなと思います。酒粕自体でも、成分を取り出して活用するでもいいですが、有効に使えたら全国の酒蔵の課題が解決できますね。

―漆原さんが思い描く「新潟の未来」について教えてください。

新潟だけで生きていけるくらい、すべてが揃っていると思います。食料自給率も高いですし、もっと自分たちの良さを知って、若い方たちがチャレンジできるような環境を作っていけたらと考えています。特に、農業や漁業というのは新潟にとって非常に大事だと思っているので、全ての基礎である一次産業をしっかりやれる県になってほしいと思います。

―最後に、スタートアップへのメッセージをお願いします。

スタートアップは「誰かのためになりたい」という考え方が非常に大きな方針を決めていると思います。私も「誰かがよくなる。それによって自分たちもよくなる」というのが新しいイノベーションだと考えています。DXについても、「そもそも何のためにやるのか」「なぜやるのか」という意識の部分の変革もあわせて必要だと思っています。

お客様の「麒麟山の味が変わらないこと」という期待に応えながら、若い人たちが中心になって社内の合理化や効率化を図っていく。それにより、集中すべきことに時間が割けたり、新しいことに取り組めたりする。そうすると自分たちも楽しくなって、最終的にお客様にとっても良い効果をもたらすことにつながると考えています。

 

【事務局からひとこと】
「理想は週休3日を実現すること」と何事も無理だと思わずにチャレンジすることが大事だと語る漆原さん。歴史ある産業の常識と地方課題を今一度見つめ直し、ワクワクする未来の牽引者を目指す麒麟山酒造への様々な提案を募集しています。事業連携に興味のあるスタートアップはこちらまで!

2025年5月21日取材
取材・編集 井上佳純
撮影    星野静香